第4話 目指したい強さがあるのなら



 勇ましき幻獣グリーヴァの身体をわずかな光が覆っていく。

「融合のとき墓地に送られた《幻獣クロスウィング》の効果。
 幻獣は、異世界からでも効果を発揮できるカードです。
 幻獣モンスターの攻撃力を300ポイントアップさせます」

《幻獣クロスウィング》 []
★★★★
【獣戦士族・効果】
このカードが墓地に存在する限り、
フィールド上に存在する「幻獣」と名のついた
モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
ATK/1300 DEF/1300

《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》ATK2500→2800

「3体融合……。手札の消耗は激しいが、むやみに融合しただけじゃない。
 墓地の《幻獣サンダーペガス》にも、幻獣の戦闘破壊を防ぐ効果がある。
 そして、あの幻獣。見たことのないカードだが、確実に何かの効果を秘めている」

《幻獣サンダーペガス》 []
★★★★
【獣戦士族・効果】
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分フィールド上に存在する「幻獣」と名のついた
モンスター1体が受ける戦闘ダメージを0にする。
この時そのモンスターは戦闘によって破壊されない。
ATK/ 700 DEF/2000

「切り札のモンスターは、もっと相手を消耗させてからが基本だよね。
 ていうことは、何か効果への耐性を持っているのかも……」

 藤原の警戒に、レイが補足する。
 それだけの大胆不敵な一手。
 場の緊張は高まっている。

「さらにカードを1枚伏せて、ターンを終了します」

「俺のターン、ドロー!」

 だが、翼に怖気づくような様子は見られなかった。
 むしろ翼は高揚感を押さえきれないかのようだ。
 イルニルとの闘いのときに救えなかった悔しさ。
 悪意のない精霊を利用しようとする背後の者への怒り。
 精霊と人間が融合させられたという不可解な生命への疑問。
 そして、未知の強敵とデュエルする興奮。
 すべてを果たすべきこの決闘。
 その胸の高鳴りをカードに込めて、全力でぶつける。

「俺は《英鳥ノクトゥア》を召喚するよ!
 その効果で、デッキから輝鳥(シャイニングバード)と名のつくカードをサーチできる!
 俺が手札に加えるのは、《輝鳥-アクア・キグナス》!」

 英知のフクロウの鳴き声で、水色の魂が翼の手に導かれる。

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

「翼、早速やる気だね。
 キグナスならあの布陣を突破できる!
 でも、先輩たちが言うように耐性があるなら……」

「俺は《輝鳥現界》を発動するよ!
 場とデッキからレベルが合計7になるように生け贄を捧げる。
 場のノクトゥアとデッキのレベル4の《霊鳥アイビス》を生け贄に捧げる!
 アイビスを生け贄に捧げたことで、デッキからカードを1枚ドロー!」

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

《霊鳥アイビス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1700 DEF/ 900

 夕暮れのこの森の入り口に、水色の光が集まっていく。
 波の音が聞こえるように、きらきらと黄昏の光を反射する。

「降臨せよ! 水の《輝鳥-アクア・キグナス》!!」

 翼の宣言に呼応して、光が収束して形を成す。
 水色の羽から、優雅なるハクチョウの姿が形成されていく。
 その羽根に水を纏いながら、切れ長の目で場を見下ろす。

「キグナスの召喚時の効果だ!
 場のカード2枚を選択して、1枚をデッキに、1枚を手札に戻す!
 シルキルさんの場の2枚を指定するよ!
 いっけぇ! 『ルーラー・オブ・ザ・ウォーター』!!」

《輝鳥-アクア・キグナス》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「水」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上のカード2枚を選択し、
1枚をデッキの一番上に、もう1枚を持ち主の手札に戻す。
ATK/2500 DEF/1900

 翼で敵を指差すと、怒涛の水流が滝のようにシルキルに襲い来る。
 融合モンスターは手札に戻らず、デッキに戻る。
 つまり、場の2枚のカードをデッキに戻す強烈な効果。

「《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》の効果発動です!
 『ファントム・ヴァリー』!!」

「そんな! このタイミングで!?」

 水流が獅子を飲み込もうとしたとき、――その姿が消えた。
 翼は何が起こったか分からず。
 そして、水流は止まらない。

「……あのモンスターがどこかに消えた!?
 けど、リバースをなくせば攻撃は通せる!!」

「リバースカード、オープンです!」

 ――当然、通されるはずもなく。
 シルキルが宣言すると、瞬時に鎖が伸びてキグナスを捕縛する。
 黒い魔力の滲み出る邪悪なチェーン。
 放たれた飛沫も霧散し、力を失ってしまう。

「さすが恐ろしい効果を持っていますね。
 ですが、《デモンズ・チェーン》を発動しました。
 これで効果の発動と攻撃は封じられます」

《デモンズ・チェーン》
【罠カード・永続】
フィールド上に表側表示で存在する
効果モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターは攻撃する事ができず、効果は無効化される。
選択したモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

「クッ……。やっぱり、対策カードがあったんだね……。
 俺はカードを1枚伏せて、ターンを終了するよ」

「そして、効果で除外されたグリーヴァはエンドフェイズに場に戻ります」

「!!?」

 虚空から半透明のグリーヴァが舞い降りて、実体化する。
 そして、その瞳とたてがみを赤く光らせる。
 グリーヴァから幻影の赤い獅子が2体分かれ、場を疾走する。
 そして、その向かう先は――お互いの山札。

「同時にグリーヴァの効果発動です。
 『メモリー・イーター』!!
 お互いのデッキを上から5枚墓地に送ります!」

 獅子が喰らいつき、ディスクが反応する。
 自動的にカードが墓地に送られると、獅子は立ち消えた。

「力に反応し、幻へと姿を変えて身を隠す『ファントム・ヴァリー』。
 そして舞い戻り、山札に刻まれた記憶を喰らう『メモリー・イーター』。
 これが私の新しい力です」

《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》 []
★★★★★★★★
【獣戦士族・効果】
「幻獣王ガゼル」+「幻獣」と名の付いたモンスター×2
効果モンスターの効果・魔法・罠カードの効果が発動したとき、
次のエンドフェイズまで、フィールド上に存在する
このカードをゲームから除外する事ができる。
この効果でゲームから除外された
このカードがフィールド上に戻った時、
お互いはデッキの上からカードを5枚墓地に送る。
ATK/2500 DEF/2400

 さらに《幻獣クロスウィング》が墓地に送られたのだろう。
 ヴァラーグリーヴァの纏う光はさらに勢いを増していた。

《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》ATK2800→3400

「陽向居……。翼のデッキはあの『輝鳥(シャイニングバード)』を中心にした儀式デッキか?」

 藤原が険しい表情で、明菜に問いかける。

「うん……。
 小型の鳥獣モンスターでドローとかのサポートをして、
 大型の儀式モンスターで一気に決めてくるデッキだけど……」

「一般パックでの販売はしていないカードだが、よく集めたな。
 だが、だとしたら、シルキルのデッキと相性は悪いな……。
 この闘い。長引けば長引くほど、まずい」

「!」

「【輝鳥】。四属性のレベル7鳥獣族儀式モンスターを中心にしたデッキ。
 召喚時に発動する強力な効果で、相手を攻めていく。
 儀式は降臨のときに多くのカードを消耗するが、
 儀式魔法の《輝鳥現界》はデッキからも生け贄を捧げられる。
 そして、下級の聖鳥シリーズはドローとサーチを中心にサポートする。
 儀式の欠点を上手く補えるが、その分デッキの消費は速い。
 デッキの枚数を確認してみろ」

シルキル
LP4000
モンスターゾーン
《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》ATK3400
魔法・罠ゾーン
《デモンズ・チェーン》(キグナスを捕縛)
手札
1枚
デッキ
29枚
LP4000
モンスターゾーン
《輝鳥-アクア・キグナス》ATK2500
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
4枚
デッキ
26枚

「翼の方が少なくなってる……。
 こんな弱点があったなんて……」

「動きを加速させている分、持久戦に持ち込まれるとまずいな。
 この勝負。早く攻め込まないと、デッキ切れで負けに追い込まれる……」


「私のターンです。 ドロー」

 一方のシルキルは冷静に状況を処理しているように見える。
 自分の力を、手を握り直して改めて確かめるように。
 自らの新たな力に手応えを感じているようだ。
 だが、その様子はどこか物寂しげにも見える。

「《マジック・プランター》を発動します。
 永続罠《デモンズ・チェーン》を解除して、2枚ドロー」

《マジック・プランター》
【魔法カード】
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「《幻獣ワイルドホーン》を召喚します!
 幻獣モンスターのため、クロスウィングの効果を受けます!」

 筋肉が発達し、二本足で立つシカの幻獣。
 その屈強な角に、墓地から力が注がれていく。

《幻獣ワイルドホーン》 []
★★★★
【獣戦士族・効果】
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分フィールド上に存在する「幻獣」と名のついた
モンスター1体が受ける戦闘ダメージを0にする。
この時そのモンスターは戦闘によって破壊されない。
ATK/1700 DEF/ 0

《幻獣ワイルドホーン》ATK1700→2600

「レベル4モンスターなのに、俺のキグナスの攻撃力を超えた!?」

「バトルです! グリーヴァの攻撃!」

 右手にエネルギーを溜め込み、球形の白い衝撃弾が形成される。
 凝縮されたエネルギー結晶体を握り、腕をひねり全身で振りかぶり投げつける。

「『ショックウェーブ・パルサー』!!」

 凄まじい衝撃の込められた豪速球が、キグナスに迫る。

「リバースカードオープン! 《イタクァの暴風》!!
 攻撃表示のモンスターを守備表示に変えるよ!」

《イタクァの暴風》
【罠カード】
相手フィールド上に表側表示で存在する
全てのモンスターの表示形式を変更する。

 暴風が巻き起こり、その軌道は逸らされた。
 ワイルドホーンもバランスを崩し、守備態勢しか取れない。
 そして、グリーヴァにも暴風が襲い来るが……。
 
「クロスウィングで強化できるのは攻撃力のみ。
 守備表示にされては困ります。
 効果発動! 『ファントム・ヴァリー』!
 幻影となり、退避しましょう」

 いかなる効果も、その黒獅子を捕らえることはできない。
 風は空を切り、シルキルのバトルフェイズが終わる。

「カードを1枚伏せて、ターンを終了します。
 そして、グリーヴァが場に戻り効果発動です。
 『メモリー・イーター』!」

シルキル
LP4000
モンスターゾーン
《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》ATK3400、《幻獣ワイルドホーン》DEF0
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
1枚
デッキ
26枚→21枚
LP4000
モンスターゾーン
《輝鳥-アクア・キグナス》ATK2500
魔法・罠ゾーン
なし
手札
4枚
デッキ
26枚→21枚

 徐々にデッキが削られ、タイムリミットが迫っていく。

「俺のターンだね! ドロー!!」

 しかし、翼に恐れも焦りも見られなかった。
 相手に挑みかかる果敢な姿。

「カードを使うと、場から消えちゃうんだよね!
 ならこのままバトルだ!
 キグナスで守備表示のワイルドホーンに攻撃!
 『シャイニング・スプリットウィング』!」

 水飛沫を伴いながら、高速で滑空し、雄大な羽でなぎ払う。
 守備表示では力を持たないワイルドホーンに襲い掛かる。

「墓地より《幻獣サンダーペガス》の効果発動です!
 ワイルドホーンを戦闘破壊から防ぎます!」

《幻獣サンダーペガス》 []
★★★★
【獣戦士族・効果】
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分フィールド上に存在する「幻獣」と名のついた
モンスター1体が受ける戦闘ダメージを0にする。
この時そのモンスターは戦闘によって破壊されない。
ATK/ 700 DEF/2000

 電磁結界が張られ、ワイルドホーンが守られる。
 羽の切っ先が食い止められ、流水と雷電の魔力が青い火花を散らす。
 
「攻撃は通らないと分かっているはずです。
 少しでも消耗させておく気ですか。
 ですが、このデッキで墓地を肥やすのは容易なこと!
 そんな攻撃では牽制にも――」

「――それだけじゃないよ!」

 自分のコンボを確かめるように唱えるシルキル。
 それを遮り、翼は威勢よくカードをかざす。

「速攻魔法発動! 《加速》だ!
 キグナスの攻撃力を300ポイント上げて、貫通効果を加えるよ!
 モンスターの破壊は防げても、戦闘ダメージは通るよね!」

「な!!」

《加速》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の攻撃力は
エンドフェイズ時まで300ポイントアップする。
そのモンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

《輝鳥-アクア・キグナス》ATK2500→2800

 水流は加速して、ワイルドホーンを突き抜ける。
 そして、シルキルを飲み込むように通り抜けた。

シルキルのLP:4000→1200

 ここまでゲームペースを握っていたのは、シルキル。
 しかし、最初にダメージを与えたのは翼。
 翼の気勢は、デュエルの圧倒的な流れさえ乱した。

「確かにすごいけど、破れないコンボじゃない!
 時間は限られても、まだ勝負が決まったわけじゃない!
 俺は全然諦めてないよ!」

 向こう見ずなまでの勇猛さ。
 シルキルに驚きと興奮が突き抜ける。
 デュエルの前に感じた高揚感。
 もう一度胸にこみ上げ、期待せずにはいられない。
 この少年は自分が失った何かを持っている。
 ――強さを求めよ。
 自分の中にずっと鳴り響く願い。
 もう、ここには願いしか残っていない。
 だが、強さを求めることには、何か理由があったはずだ。
 それは義務ではなく、本能でもなく――。
 自分を突き動かすもっと根本的なもの。
 思い出せない。
 思い出せるはずがない。
 焼き切れたものは、もう戻らない。
 記憶の灰は掴めない。
 ――ならば、この目に焼き付けなくては。
 強さを求めるものの眩しさと気高さを。
 何もなくなってしまったこの場所からでも。
 それならばできるはずだ。
 ――この熱をもっと感じるために。
 挑発に乗ろうではないか。
 この新しい力のすべてをぶつけねばなるまい。

「リバースカードオープン! 《強欲な瓶》!
 デッキからカードを1枚引きましょう。
 同時にグリーヴァの『ファントム・ヴァリー』を発動!
 姿を消して、エンドフェイズに舞い戻ります」

《強欲な瓶》
【罠カード】
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 フリータイミングのトラップによるドローと墓地肥やし。
 迎撃態勢が整えられていく。

「いいでしょう!
 墓地の布陣は整っています!
 すぐに攻め返して差し上げましょう!」

「望むところだ!
 俺はモンスターをセット!
 カードを2枚伏せて、ターンを終了するよ!」

 決闘のボルテージは高まっていく。
 一瞬で崩れかねない均衡。
 だが、どちらも意気揚々と決闘に臨んでいる。


「有利な相手を挑発してどうする……。
 まして罠を回避する効果もあるというのに。
 久白は何を考えているんだ……」

 藤原の口から、苦言がこぼれる。

「きっと何も考えてないと思う。
 でも、何となく感じてることは分かるかな」

 明菜は楽しそうに返した。

「やっぱり分かるの!!?」

 レイも瞳をキラキラと輝かせ、注目する。

「翼はね、相手の熱を感じたいんだよ。
 だから、ああやってぶつかり合おうとするの」

「……『熱』って?」

「うーん、情熱とか熱意とか、そういう前に向かう強い感情っていうか……。
 初対面の人ほど、翼はいろんなことを話そうとするの。
 そして、相手も話してくれるように、呼びかけるんだ。
 デュエルでも一緒。その人の『何か熱いもの』を見出そうとするの」

「へー! そうなんだー!!
 さすが明菜ちゃん! 翼くんのことは何でもお見通しだねー!」

 レイがニヤニヤとからかう。
 その指す所にようやく気づき、明菜が慌てふためく。

「だ、だから、あたしと翼はただの幼馴染で……」

 明菜は赤面して、弁解している。
 その一方で藤原は唇に指を当て、「うーん……」と考え込む。

「――どうして、久白はそうやって『熱』を求めているんだ?」

 藤原の深刻な言い回しに、明菜とレイが振り向く。

「いや、他の人の何かを知りたい好奇心は誰にでもあるとは思う。
 ただ、久白にはもっと特別な関心を感じる気がするんだ。
 普通の人よりも、もっとその『熱』を求めなければいけない理由を。
 ときどき久白は遠くを見ているようにも感じる。
 精霊のことを語るときだけじゃなく、会話の合間の孤独のときにも。
 上手く言い表せないが……。僕にはそう思えてしまうんだ」

 藤原の鋭い関心。
 明菜は驚いて、戸惑う。
 その驚きに、見抜いてくれた嬉しさも混じっていた。
 話せば分かってもらえる、そんな期待を感じさせるような。

「あたしは、その理由は大体分かるけど……。
 でも、あたしから話すのは――」

「――俺から話すよ!」

「翼!」

 強く快活な声が、割り込んでくる。

「藤原先輩も、レイちゃんも親身になってくれる。
 この闘いもまだまだ続くと思う。
 だから、俺たちのことを話しておきたいんだ」

「うん……、そうだね。
 あたしも二人になら知ってほしいかな」

 明菜は頷いて、続きを促した。

「俺たちは二人とも、10年前に災害で両親を失った孤児なんだ。
 『4の災厄』、立て続けに起きた、地震、噴火、嵐、津波の大災害。
 俺と明菜が同じ場所から来たっていうのは、
 同じ孤児院――児童擁護施設――出身ってことなんだ」

 翼が語りだし、藤原とレイはじっと聴いていた。
 そして、シルキルも興味深く聴いていた。

「でも、いつまでも悲しみや不運に浸っていたくない。
 だから、俺はきっと人の熱を求めてしまうんだと思う。
 熱い気持ちに触れたら、自分も頑張れる気がするから!」

「あたしもそうなんだ。
 ずっと閉じこもってばかりじゃいけない。
 誰かと優しさを交換して、温かい気持ちになろうとするんだ」

「でも、それはつらいことじゃないんだ。
 その必死さで得てきたものだって、たくさんある。
 大事なのは、向き合って、今どうするかだと思うんだ。
 だから、俺はもっと頑張りたい。
 このデュエルだって、俺は負けない!」

 翼の声が力強く響いた。
 虚勢ではない、堂々とした姿。

「教えてくれてありがとう、久白。
 僕にも暗い過去がある。取り消せない過ちがある。
 だから、誰かの乗り越えた強い姿は、見ていて励まされるんだ。
 久白、陽向居。僕は君たちを応援していきたいと思う」

「藤原先輩、ありがとう」

「私もあなたの前向きな姿勢を、尊く思います」

「「シルキルさん!?」」

 数人の声が重なり、思わぬ賛同者に向けられた

「大切なのは、過去がどうであったかではない。
 いずれにせよ、今を強く生きなくてはならないことである。
 一理ある姿勢ですし、私もそうしていくことでしょう」

 シルキルは胸に手を当て、その心に問いかける。

「ですが、この変質を選んだことにも、恐らく一理あるのでしょう。
 今の私には分かりませんが、その理由も知った上で、
 私はこの力の矛先を決めていきたいと思うのです。
 だからこそ――」

 シルキルはデッキに手を伸ばし、鋭くカードを引き抜いた。

「――この新しい力で、あなたの姿勢の強さを試させていただきます」

 翼に向けられる鋭利なる戦意。
 フィールドの緊張感が高まっていく。

シルキル
LP1200
モンスターゾーン
《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》、《幻獣ワイルドホーン》
魔法・罠ゾーン
なし
手札
3枚
デッキ
15枚
LP4000
モンスターゾーン
《輝鳥-アクア・キグナス》、伏せモンスター×1
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
1枚
デッキ
15枚

「私は《貪欲な壺》を発動!
 デッキにモンスター5体を戻して、2枚ドロー!」

「そのカード!!
 デッキの消耗も防げるし、カードも引ける!
 さすが考えられてる……」

《貪欲な壺》
【魔法カード】
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「私は《金華猫》を召喚します。
 その召喚時の効果で墓地のレベル1モンスターを蘇生します。

《金華猫》 []

【獣族・スピリット】
このカードは特殊召喚できない。
召喚・リバースしたターンのエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。
このカードが召喚・リバースした時、
自分の墓地に存在するレベル1のモンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上から離れた時、
この効果で特殊召喚したモンスターをゲームから除外する。
ATK/ 400 DEF/ 200

 私が墓地から呼び寄せるのは、《モジャ》のカード!」

 全身の毛が逆立った化け猫が奇声を発し、魂を呼び寄せる。
 『もじゃーっ』と声をあげ、黒い毛玉モンスターが現れる。

《モジャ》 []

【獣族・効果】
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分の墓地に存在するレベル4の獣族モンスター1体を手札に加える事ができる。
ATK/ 100 DEF/ 100

「あのカードはイルニルさんのカード!
 墓地もあれだけ枚数があるなら、まさか!!」

 翼の警戒通りに、墓地が光を発して、効果発動を告げる。

「墓地の《キング・オブ・ビースト》の効果発動です!
 場の《モジャ》を生け贄に捧げることで、蘇生召喚します!」

 《モジャ》がポンとはじけて消える。
 同時に森が振動し、虚空から巨大な黒毛玉が襲来する。
 四本の骨ばった黄色い足、天頂から威圧する王の面持ち。
 あの日イルニルが自慢げに召喚した猛獣が、再び立ちはだかる。

《キング・オブ・ビースト》 []
★★★★★★★
【獣族・効果】
自分フィールド上に表側表示で存在する「モジャ」1体を生け贄に捧げて発動する。
このカードを手札 または墓地から特殊召喚する。
「キング・オブ・ビースト」はフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
ATK/2500 DEF/ 800

「さらに《野性解放》をグリーヴァに発動します!
 攻撃力に守備力を加算して、その攻撃力は――」

《野性解放》
【魔法カード】
フィールド上に表側表示で存在する
獣族・獣戦士族モンスター1体の攻撃力は、
そのモンスターの守備力の数値分だけアップする。
エンドフェイズ時そのモンスターを破壊する。

《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》ATK3400→5800

「攻撃力5800!
 それにモンスターは4体もいる……。
 前のターンに久白が攻め込んだ分、守りのカードは浅くなる。
 耐え切れるかのか、久白は」

 攻撃力でも数でも上回るシルキルの布陣。
 観戦する藤原たちも危機感を隠せない。

「バトルフェイズです!
 グリーヴァの攻撃!」

 その力は極限まで解放され、魔力に満ちている。
 胸の前に両腕を組みかざし、両翼からもエネルギーを注ぎ込む。
 練成される身の丈ほどの巨大な砲弾。
 肥大した豪腕で殴りつけ、放たれる。

「『ワイルド・ショックウェーブ・パルサー』!!」

 キグナスはひとたまりもなく飲まれ、白い魔砲弾は翼に肉薄する。

「そのダメージは受けられない!
 リバースだ! 《ガード・ブロック》!!
 自分へのダメージを防いで、カードを1枚ドロー!」

《ガード・ブロック》
【罠カード】
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 すんでのところで、バリアーが貼られ、ダメージから逃れる。

「ですが、まだ後続の攻撃が残っています!
 ワイルドホーンで伏せモンスターに攻撃!」

 凄まじい勢いで、角を突き出して疾走。
 守備耐性のまるまると太った鳩を跳ね飛ばし、攻撃は翼に及ぶ。

「くっ! 貫通ダメージは受けるけど、破壊されたコロンバの効果!
 俺はカードを1枚ドローするよ!」

翼のLP:4000→3400

《寧鳥コロンバ》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/ 0 DEF/2000

 翼はかろうじて防ぎつつ、次に繋げるドローをしていく。

「もうモンスターはいません!
 《キング・オブ・ビースト》のダイレクトアタック!
 『キング・ストンプ』!!」

 飛び跳ねる黒毛玉の巨体。
 防ぐ手段はなく、翼は迫るビジョンに押し潰され、尻餅をつく。

翼のLP:3400→900

「まだ一匹いますよ!
 《金華猫》でも攻撃しておきましょう!」

 倒れた翼に、化け猫が爪を立てて飛び掛る。
 翼は振り払うように、手を前にかざしてリバースを開く。

「永続トラップ、《リミット・リバース》発動だ!
 墓地から攻撃力1000以下のモンスターを特殊召喚する!
 来い! 《英鳥ノクトゥア》!」

《リミット・リバース》
【罠カード・永続】
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 フクロウが羽を広げて威嚇し、怪猫は一目散に退散した。

「そして、ノクトゥアの召喚時の効果だ!
 デッキから輝鳥と名の付くカードをサーチする!
 俺は……」

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

 翼はデッキを取り出し、残るカードを確認する。
 既にデッキの枚数は13枚。
 選ぶカードは限られている。

「地の輝鳥、テラ・ストルティオを手札に加える!」

「では、このタイミングでグリーヴァの効果発動!
 《野性解放》の自壊を回避し、さらにデッキを削っておくとします。
 カードを1枚伏せて、エンドフェイズ!
 《金華猫》が手札に戻り、グリーヴァの効果発動!
 復帰と同時にデッキを削る『メモリー・イーター』!」

 激化するフィールドの裏で、タイムリミットも迫っていた。

シルキル
LP1200
モンスターゾーン
《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》、《幻獣ワイルドホーン》、
《キング・オブ・ビースト》
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
2枚(うち1枚は《金華猫》)
デッキ
17枚→12枚
LP900
モンスターゾーン
《輝鳥-アクア・キグナス》、《英鳥ノクトゥア》
魔法・罠ゾーン
《リミット・リバース》
手札
3枚
デッキ
12枚→7枚

「数えるくらいしかデッキの枚数がない……。
 この次が最後の久白のターンかもしれないな。
 だが、あの布陣は強力だ。
 この状況でどう立ち向かう……」

「俺のターンだ、ドロー!」

 翼は臆することなく、デッキに手を伸ばす。
 手札を見つめる表情は明るい。
 この逆転への有効打を握っているかのように。

「俺は《貪欲な壺》を発動するよ!
 墓地のモンスター5枚をデッキに戻して、カードを2枚ドロー!」

 シルキルと同じドロー強化。
 お互いに墓地が肥えやすいデッキ戦術。
 使用カードが重なるのもまた必然。

《貪欲な壺》
【魔法カード】
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 この状況に対する最善の一手ではある。
 だが、翼が展開するには、デッキの消耗が避けられない。
 2度グリーヴァの効果を受けるとすれば、翼に次のターンはない。
 デッキが切れてドローができなければ、敗北してしまう。

「俺は儀式魔法《高等儀式術》を発動する!
 デッキからレベル4の《冠を戴く蒼き翼》とレベル3の《音速ダック》を生け贄に捧げ――」

《高等儀式術》
【魔法カード・儀式】
手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が
同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。
選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 それでも翼は儀式により、力を集約させる。
 大地からオレンジ色の光が収束し、森がざわつき始める。

「来い! 地の《輝鳥-テラ・ストルティオ》!!」

 翼の呼びかけで光は力として、実体化する。
 オレンジの脚から、勇壮なるダチョウの姿が形成されていく。
 その脚で大地を踏みしめ、地に眠るものを呼び起こす。

「儀式召喚時の効果発動だ!
 『ルーラー・オブ・ジ・アース』!!
 墓地の鳥獣族モンスターを復活させる!
 俺が呼び出すのは――」

 翼は手札に目を走らせ、呼ぶべきカードを直感した。

《輝鳥-テラ・ストルティオ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、自分の墓地の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/2500 DEF/1900

「《聖鳥クレイン》を守備表示で召喚!
 この特殊召喚時の効果で1枚ドロー!」

《聖鳥クレイン》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードが特殊召喚した時、このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。
ATK/1600 DEF/ 400

 選び出したのは、ドロー加速。
 今は1つでも多くの対抗策が必要となる。
 10枚以下ならば、デッキはないに等しい。
 なら、その力を今ここで搾り出すことが必要とされる。

「さらに速攻魔法《祝宴》を発動する!
 儀式モンスターがいるとき、カードを2枚ドロー!」

《祝宴》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示の儀式モンスターが
存在するときのみ発動することができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 手札は5枚にまで補充された。

「ここで決めなければ、デッキ切れで負ける。
 でも、どっちだろう……。
 翼の顔、負けるって悔しそうな顔でもないし、
 勝てるっていう嬉しそうな顔でもない……。
 まだ分からない続きがあるような感じ……」

「さすが、明菜ちゃん!
 表情だけでパートナーの吉凶が分か――」

「でも、翼は結構顔に出るから、誰でも分かりやすいと思う。
 まだもう一波乱あるのかな……」

 レイのいつものノリはさらりと受け流され、レイは「あれれ」と頭をかく。
 それだけ明菜も、この決闘の行く末に夢中のようだ。
 そして、翼は手札から目線を上げ、行動を開始する。

「バトルだ!
 ストルティオで《キング・オブ・ビースト》を攻撃!
 『シャイニング・クエイクレッグ』!」

 その脚力と精霊の力で、大地を震わせながらの疾走。
 凄まじい勢いをつけた上での跳躍。
 頭上からのキックで、《キング・オブ・ビースト》を圧倒しようとする。
 だが、脚力ならば《キング・オブ・ビースト》の4本足も負けない。
 空中のストルティオ目掛けて、頭突きで迎え撃つ。
 その黒い体毛を硬化させ、跳躍するが――。

「墓地のアンセルの効果だ!
 ストルティオの攻撃力を400ポイント上昇させるよ!」

《兵鳥アンセル》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
ATK/1500 DEF/1400

 風の力で後押しされ、ストルティオのキックが毛玉王を貫いた。

シルキルのLP:1200→800

「なら、ここでグリーヴァの『ファントム・ヴァリー』を発動。
 これでデッキ切れは確定となります。
 ここでライフを削りきらなければ……」

「俺はバトルを終了だ!」

「何!?」

 バトルを惜しげなく打ち切る翼。
 まだ策があるのか、誰もが注視する中で。

「へへ……。どうなるか楽しみだな!
 カードを3枚伏せて、ターン終了だよ!」

 翼は次を待ちきれないかのように、エンドを宣言する。
 そして、デッキの枚数はゼロを指し示した。

「私のターンです、ドロー……」

 エンドを宣言すれば、相手はドローできなくて負けるはず。
 手を出せば、かえって3枚のリバースでライフを失う可能性もある。
 だが、相手の秘めた策を放置するわけにもいかない。
 翼の向こう見ずな積極性に対抗するには、こちらも最大限攻め返さなくてはならない。
 それが相手の強さを本当に試すことにもなろう。

「《金華猫》を手札から捨て、《ワン・フォー・ワン》を発動します!
 この効果でデッキから《カオス・ネクロマンサー》を特殊召喚です!
 さらに手札からもう1体の《カオス・ネクロマンサー》を召喚します!
 この攻撃力は墓地にいるモンスターの数×300となります!」

《ワン・フォー・ワン》
【魔法カード】
手札からモンスター1体を墓地へ送って発動する。
手札またはデッキからレベル1モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する。

《カオス・ネクロマンサー》 []
★★★★
【悪魔族・効果】
このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する モンスターカードの数×300ポイントの数値になる。
ATK/ 0 DEF/ 0

 墓地のモンスターへと、死人使い(ネクロマンサー)の魔力の糸が伸びる。
 その操作精度は決して高いものではない。
 だが、非力な人形も数を重ねたのなら、立派な戦力になる。
 墓地にカードを送り続け、死者の軍隊の準備は万全である。

《カオス・ネクロマンサー》ATK 0→6000

「攻撃力6000……、すげえ……!」

 翼から思わず漏れる感嘆。
 シルキルは誇らしげに、攻撃を開始する。

「バトルです! 《カオス・ネクロマンサー》でストルティオへ攻撃!
 『ネクロ・パペットショー』!!」

 蘇った野生の大軍が、ストルティオに大挙して襲い掛かる。
 その軍隊を前に、翼がリバースに手をかける。

「そうはさせない! リバースは《ゴッドバードアタック》だ!
 ストルティオを生け贄に、《カオス・ネクロマンサー》を破壊するよ!
 さらにもう一体、グリーヴァも破壊だ!」

《ゴッドバードアタック》
【罠カード】
自分フィールド上に存在する鳥獣族モンスター1体を生け贄に捧げて、
フィールド上に存在するカード2枚を選択して発動する。
選択したカードを破壊する。

 パペットショーを切り裂いて、炎の矢と化したストルティオが飛ぶ。
 そして、その勢いのまま、グリーヴァにも襲い掛かる。

「させません! 『ファントム・ヴァリー』で除外ゾーンに退避!
 グリーヴァを倒すことはでき――」

 その力を誇ろうとして、翼の口元に笑みがあることに気づく。

「この瞬間を狙ってたよ!
 リバースカードオープン!《異次元からの埋葬》!
 除外されたカードを3枚まで墓地に戻す!
 俺は《兵鳥アンセル》と、そして《覇界幻獣グリーヴァ》を墓地に戻す!
 やっとグリーヴァを倒せる!!」

《異次元からの埋葬》
【魔法カード・速攻】
ゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、
そのカードを墓地に戻す。

「上手いぞ、久白!
 あの万能回避の効果を打ち破るとは!
 相手のモンスターはあと1体。
 守備のクレインで防いで、次のターンにつなげれば!!」

「うまく弱点をついてきましたが――。
 想定済みです! リバースカードオープン!」

 幻獣を墓地に眠らせようとする異次元のうねり。
 それがさらに乱され、虚空が引き裂かれる。

「《闇次元の解放》を発動です!
 除外されているグリーヴァを特殊召喚!
 その策は通用しません!」

《闇次元の解放》
【罠カード・永続】
ゲームから除外されている自分の闇属性モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードがフィールド上から離れた時、
そのモンスターを破壊してゲームから除外する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「くーっ! 惜しかったのに、倒せなかったぁー!」

「さあ、グリーヴァの攻撃です!
 『ショックウェーブ・パルサー』!」

 クレインが魔力の剛速球に打ち倒され、翼の場はがら空きとなる。

「これで終わりです!
 2体目の《カオス・ネクロマンサー》の攻撃!
 『ネクロ・パペットショー』、再演です!!」

 今度は翼が、操られる猛獣の群れに襲われる。
 大地を揺るがすほどの大軍が、翼を飲み込んだ。
 その土煙が晴れるまで、翼の姿は見えない。

「翼が倒されるはずないよ!
 あれだけ墓地にカードがあれば、あのモンスターもいるはず!」

 明菜の確信どおりに、ライフカウンターは変動していない。
 薄いバリアーに守られて、翼はまだそこで立ち向かっていた。

「俺は墓地から《恵鳥ピクス》の効果を発動した!
 このカードを墓地から除外することで、自分への戦闘ダメージをゼロにする!」

《恵鳥ピクス》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
このターン、コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
ATK/ 100 DEF/ 50

「なるほど……。
 あなたも墓地を生かす戦略が上手いです。
 私の手札はもうありません。
 ターンを終わらせますが、そのデッキはどうしますか?」

「へへ……、手はあるんだよ!
 エンドフェイズに《転生の予言》を発動する!
 俺は2枚のカードを墓地からデッキに戻す!」

《転生の予言》
【罠カード】
墓地に存在するカード2枚を選択して発動する。
選択したカードを持ち主のデッキに戻す。

「そうか、そのカードがあったか!
 確かに久白の【輝鳥】はデッキの生け贄要員も重要だ。
 《転生の予言》を生かせるデッキには違いない」

「選ぶカードはもう決めてある!
 そして、俺の勝つ確率は2分の1だ!」

 意気揚々とデッキに2枚のカードを戻した。
 翼のドローに注目が集まる。

「戻したうち、アタリのカードを引ければ俺の勝ち。
 ハズレのカードを引いたら、俺は負ける。
 どっちかの大勝負! ワクワクするよな!」

 一番上のカードに手をかけ、翼は言い放った。

 シルキルは魅せられていた。
 成功したその先を見届けたいと思った。
 常に限界の攻防が繰り広げられたこの決闘。
 それに相応しい盛大な幕引きが見たい。
 目の前の少年がどこまでも駆け抜ける姿を。
 その秘めたる可能性を。その真っ直ぐな強さを。
 その輝きの熱を感じたいと、望まずにはいられない。

「俺の最後のターンだ、ドロー!」

 カードを引いて、翼がそれを確認する。
 その瞬間、場の誰もが決闘の結末を確信した、
 翼のデュエルは、あまりにも顔に出すぎる。
 だからこそ、その成功が誰の目から見ても分かった。

「俺の勝ちだ!!」

 カードを掲げてまで、勝ち(どき)を宣言する。
 その結末は、繰り出されるカードが物語る。

「俺は《契約の履行》を発動する!
 ライフを800ポイント支払って、儀式モンスターを復活!
 俺はテラ・ストルティオを特殊召喚する!」

翼のLP:900→100

《契約の履行》
【魔法カード・装備】
800ライフポイントを払う。
自分の墓地から儀式モンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターをゲームから除外する。

 先ほど《ゴッドバードアタック》で力を燃やし切ったダチョウが現れる。
 相手の場にはグリーヴァと、大軍を操る《カオス・ネクロマンサー》。
 ストルティオだけでは勝てない。

「そして、儀式魔法《輝鳥現界》を発動するよ!
 場からレベル7のストルティオを、デッキからレベル3のコロンバを生け贄に捧げる!」

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

 かざされた儀式魔法カードは、激しい光を放った。
 ありとあらゆる色彩の光が集まり、加法混色され白く発光する。
 淡い虹色を帯びた、優しく幻想的な光。

「来い! 光輝の《輝鳥-ルシス・ポイニクス》!!」

 もう一つのカードが掲げられ、その生命は定義され現出する。
 全身が光に覆われ、白く輝く尾長鳥。
 帯びる膨大な力が雷光を放ち、赤と金色に輝く。
 翼を広げて、その羽根の1枚1枚を鮮やかに発光させる。
 天の使いとあがめられる鳥獣の頂点、不死鳥。
 その化身が、今ここに姿を現す。

「レベル10の儀式モンスターをこの局面で……!」

 そして、不死鳥はシルキルの場に向かって、急降下する。
 大地に溶け込み、一体化した光の不死鳥。
 その地面は赤く染まり、胎動している。

 ――輝鳥には儀式召喚時の特殊効果がある。
 最上位の輝鳥であるなら、その効果の影響力は更なるものとなる。

「その儀式召喚時の効果だ、『ルーラー・オブ・ザ・ライト』!!」

 地中からマグマと岩石が噴き出し、不死鳥はともに舞い上がる。
 その灼熱の土石流の柱に、螺旋を描きながら飛翔する。
 輝く炎を巻き上げて、全てを死者の灰へと還そうとする。

「その効果で、相手のモンスターをすべて破壊する!」

《輝鳥-ルシス・ポイニクス》 []
★★★★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードは「輝鳥現界」の効果によってのみ降臨できる。
このカードを「輝鳥現界」により降臨させるとき、
フィールドから生贄に捧げるモンスターは、
「輝鳥」と名のつくモンスターでなければならない。
このカードの属性はルール上「風」「水」「炎」「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、
相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。
ATK/3000 DEF/2500

「グリーヴァの効果を……」

《覇界幻獣ヴァラーグリーヴァ》 []
★★★★★★★★
【獣戦士族・効果】
「幻獣王ガゼル」+「幻獣」と名の付いたモンスター×2
効果モンスターの効果・魔法・罠カードの効果が発動したとき、
次のエンドフェイズまで、フィールド上に存在する
このカードをゲームから除外する事ができる。
この効果でゲームから除外された
このカードがフィールド上に戻った時、
お互いはデッキの上からカードを5枚墓地に送る。
ATK/2500 DEF/2400

 シルキルは習慣のように唱えかけて、その口をつぐんだ。
 今効果で逃れたとしても、自分の場はがら空きになる。
 どちらにしても、もうあの少年を食い止めることはできない。
 ――ならば、この炎を受けることにしよう。
 新しい自分が、新しい力を誇らしく振舞うために。
 この熱を感じ、この身に焼き付けよう。
 気高き炎に抱かれながら、グリーヴァは姿を消す。

「そして、ダイレクトアタック!
 『ライト・ピュリフィケイション』!!」

 天に昇ったその高さから、彗星のように突撃。
 光の速さで白が降下し、シルキルを貫いた。

シルキルのLP:800→0

 何度も放たれる光の中で、シルキルは幻を見ていた。
 眩しさに焼かれるまぶたの裏側に、断片的な映像が飛び込んでくる。
 窮屈な家族の風景。
 終わりの無い勉学の競争。
 突如降り注いだ戦火。
 何も無くなった廃墟。
 すがるように、科学者の袖を掴んだ若人。
 実感はないが、情報としては繋がった。
 不自由だった自分は、戦火で自由となった。
 そして、今度は自分から強い力を望んだ。
 あの深遠の科学者の強さに憧れて――。

「シルキルさん、俺たちに教えて欲しいんだ。
 シルキルさんたちは、どうしてそんな身体になったんだ?
 そして、このアカデミアで、何をしようとしてるんだ?」

 翼の問いかけに、シルキルは少し沈黙した。
 胸に手を当て、変身の能力を発動させる。
 黒褐色の肌の人間になり、自分の身体を確かめる。
 色素のコントロールは不自由だが、形状変化は自在のようだ。

「あなたとデュエルして、自分のことが分かった気がします。
 そして、私が見極めるべき強さのことも――」

 目線を上げ、翼たちに向き直った。

「私たちの目的は話せません。
 そして、私はあの場所に戻らなくてはなりません」

「戻るって……。
 ベルトがなければ、自由じゃないのか?!
 悪い奴に命令されて、行動してるんじゃないのか!?」

 問い詰める翼に、シルキルは冷静に返す。

「『悪い奴』……、そうでしょうね、恐らくは。
 ですが、だからこそ、私は確かめたいんです。
 今、あなたの強さを確かめたときのように」

 シルキルは拳を胸に当て、記憶の糸を慎重に辿りなおす。

「私はあの方の強さに憧れて研究に賛同し、この身体になりました。
 ならば、その強さにも認めるべき何かがあるはずなのです。
 私が本当にどうするかを決めるのは、それからです」

 シルキルは前に出て、翼に右手を差し出した。

「あなたとのデュエル、素晴らしいものでした。
 その強さで、あなたの道もまた突き通してほしい」

 翼は握り返して、手を振った。

「ありがとう! 俺も楽しいデュエルだった!
 シルキルさんも、目指したい強さが見つけられるといいな!」

 握手が終わり、シルキルは強靭な脚力で森の奥へ去っていった。
 4人は夜の向こうへと消える影を、そのまま見送った。

「……チャンスだったな。
 握手までして、やろうとすれば何でもできただろう。
 これで良かったのか、久白?」

 返事を分かりながら、藤原は優しい口調で問いかけた。

「いいんだよ、シルキルさんにも確かめたいものがあるんだから。
 でも、やっぱり悪い奴らじゃないんだよ。
 なら、俺たちもその背後を早く確かめなくちゃね」

 まだ始まったばかりの闘い。
 そこで通じ合った気持ちを胸に。
 翼は怪人調査への決意を新たにした。




第5話「休日の憂さ晴らしデュエル」に続く......