第7話 夢に向かうタッグデュエル<後編>



 幼い頃に感じた孤独は、焦燥を根付かせる。

 『風の災厄』により孤児になった翼。
 6歳のときに両親と死別し、突然別の環境に放り込まれた。
 失われてしまった心の居場所。
 それを取り戻すために、誰もが焦りを抱く。
 翼は誰かの『熱い気持ち』を求めるようになった。
 立ち止まって凍えるような気持ちにならないために。
 だから、いつでも何かを求めている。
 一見前向きに見えるが、その根底にあるのは飢えの原体験である。
 自分を守るために、幼い頃から抱かざるを得なかったその習性。
 人は自分の心の動き方とずっと向き合っていかなくてはならない。
 その心の在り方は、翼を前に推し進める。
 しかし、速すぎる歩みでは、足元を踏み外すかもしれない。
 その危うさとの付き合い方を、翼は身に付けているのだろうか。


万丈目準&丸藤翔
LP3800
モンスターゾーン
《鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン》ATK6900、《ボマー・ドラゴン》ATK1000
魔法・罠ゾーン
伏せ×1、《F・G・D》(鎧黒竜に装備)
手札
1枚(翔)
陽向居明菜&久白翼
LP1600
モンスターゾーン
《クロスライトニング・ワイバーン》DEF1900、《冥王竜ヴァンダルギオン》DEF2500
魔法・罠ゾーン
伏せ×1
手札
5枚(翼)

 翼は引いたカードを確認し、思考を走らせる。
 ――《祝宴》。
 儀式モンスターがいるときに、2枚ドローできるカード。
 今なら手札のアクシピターを儀式召喚できる。
 そして、このカードを発動して、あのカードが引ければ――。
 明菜が託した伏せカードは、予想通りにモンスターの数だけ効果を増すカード。
 もしかすれば、――本当に届くかもしれない。
 いいや、届かせてみせる。
 明菜が託してくれたカードを無駄にしないためにも。
 プロに全力で挑めるこの貴重な機会を無駄にしないためにも。
 ここで絶対に引き下がるわけにはいかない。

「いくよ! 俺は儀式魔法《高等儀式術》を発動する!
 デッキから通常モンスターの《音速ダック》と《冠を載く蒼き翼》を墓地に送って、
 儀式召喚するのは――」

《高等儀式術》
【魔法カード・儀式】
手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が
同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。
選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 魔法陣より緑色の柔らかな光が、天に向かって立ち上る。
 その光がやがて鮮やかな赤に変わり、勇ましい鷹を描き出す。

「――炎の《輝鳥-イグニス・アクシピター》だ!」

 火の粉が風圧とともに舞い散る。
 炎の輪をその翼で描き出し、甲高い声とともに解き放つ。

「召喚時の効果だ! 『ルーラー・オブ・ザ・ファイア』!!
 相手に1000ポイントのライフダメージを与える!」

《輝鳥-イグニス・アクシピター》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「炎」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
ATK/2500 DEF/1900

万丈目準&丸藤翔のLP:3800→2800

「くっ! 直接ダメージ効果!
 これは防げない……。
 でも、――」

 翔は熱風のエフェクトを腕で防ぎながら、相手フィールドに目をやる。
 何か違和感がある。
 あの儀式モンスターが取っている体勢は――。

「攻撃表示で儀式召喚!!?」

 万丈目と翔の場には、攻撃力6900の《鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン》がいる。
 効果ダメージを与えるだけならば、守備表示で召喚した方が安全。
 しかし攻撃表示で召喚したならば、それ以上の狙いがあるということになる。

「俺のデッキの攻撃力を増やすカードは少ない。
 でも、もしかしたら届くかもしれないんだ!
 だから、俺は攻撃表示で召喚して、このドローに勝負を賭ける!!」

 強く言い放ち、翼は1枚のカードをかざした。

「速攻魔法《祝宴》を発動するよ!
 儀式モンスターがいるとき、カードを2枚ドローする!!」

《祝宴》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示の儀式モンスターが
存在するときのみ発動することができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 カードを2枚手札に加え、翼は考え込む。

「2500、そこに700で、場には5体揃うから……」

 ぶつぶつと呟きながら、手札と場に目線を往復させる。
 そして、出た答えは――。

「……いける!」

 小声で呟いたつもりが、思ったより大きな声が出てしまう。
 緊張した翼の表情が、獲物を狙う狩人の表情へと変化する。
 ――道筋は見えた。
 あとはこの手札で向かっていくのみ。

「俺は《黙する死者》を発動するよ!
 墓地から通常モンスターを守備表示で蘇生する!
 よみがえれ! 《音速ダック》!」

《黙する死者》
【魔法カード】
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは
フィールド上に表側表示で存在する限り攻撃する事ができない。

《音速ダック》 []
★★★
【鳥獣族】
音速で歩く事ができるダック。
そのすさまじいスピードに対応できず、コントロールを失う事が多い。
ATK/1700 DEF/ 700

 慌てんぼうのアヒルが飛び出し、両翼で頭を抑えて守備表示を取る。

「もう1体だ! 《限定解除》を発動するよ!
 ライフポイントを1000払うことで、手札の儀式モンスターを特殊召喚する!
 いくよ! 《輝鳥-テラ・ストルティオ》!!」

陽向居明菜&久白翼のLP:1600→600

《輝鳥-テラ・ストルティオ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、自分の墓地の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/2500 DEF/1900

 オレンジ色の光が集まり、頑強なダチョウが大地に降り立つ。
 しかし、正規の儀式による召喚ではない。
 その力は限定され、姿も透明で揺らいでいる。

《限定解除》
【魔法カード】
1000ライフポイントを払って発動する。
手札から儀式モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃する事ができず、
エンドフェイズ時に破壊される。
「限定解除」は1ターンに1枚しか発動できない。

「攻撃できないモンスターを2体召喚!?
 何を狙って……」

 翼は明菜を見やり、頷いて合図する。
 明菜には分かる。
 翼がこれからやろうとしていることが。

「明菜のモンスターは強いけど、出しにくい。
 俺のモンスターは出しやすいけど、倒されやすい。
 だから、どちらか一人だけじゃ力を発揮しきれないカードがある!
 二人のタッグだから、力を最大限発揮できるカードがある!」

 リバースに手をかけ、立ちはだかるサイバー・ダークを見据える。

「明菜! 明菜のカードだから、せーので発動するよ!」

「うん!」

 明菜が弾けるような笑みで応える。

「せーのっ!!」

「「リバースカードオープン、《団結の力》!!
 《輝鳥-イグニス・アクシピター》に装備するよ!!」」

 《団結の力》。場のモンスターの数につき効果が上昇するカード。
 明菜が維持したモンスターと、翼が展開したモンスター。
 その力が結集し、アクシピターに力が注ぎ込まれる。

《団結の力》
【魔法カード・装備】
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体につき、
装備モンスターの攻撃力・守備力は800ポイントアップする。

《輝鳥-イグニス・アクシピター》ATK2500→6500

 アクシピターの炎の翼は巨大化し、金色の輝きを帯びている。
 鎧黒竜の漆黒のオーラにも負けない、勇壮なる煌びやかなエナジー。
 その力を誇るように、アクシピターが高らかに啼いて威嚇する。

「攻撃力6500!!
 まだこっちの攻撃力には及ばないけど、ここまで来たのなら――」

 翔はリバースを確認し、迎撃体制に思考を巡らす。
 これまでのただの驚きとは異なった明白な動揺。
 翼は今、プロ・デュエリストを動揺させるほどの力を発揮している。

「明菜のモンスターも攻撃表示にして、バトルだ! アクシピターの攻撃だよ!
 《鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン》に攻撃だ!」

 アクシピターはみなぎる魔力をその爪に集約させる。
 そして、空に舞い上がり、勢いをつけて鎧黒竜へと急降下する。
 赤い閃光と化したアクシピターが狙いを定める。
 その軌道上に構えるサイバー・ダーク・ドラゴンの闇の砲撃。
 凶悪なる魔竜から力を得て放たれる、至高の純度の濃密な闇。
 ドラゴンの口に装填されるが――。

「速攻魔法《突進》だ!
 アクシピターの攻撃力を700ポイントアップさせる」

《突進》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の攻撃力は
エンドフェイズ時まで700ポイントアップする。

《輝鳥-イグニス・アクシピター》ATK6500→7200

 ――急加速。迎撃する間も与えないまま。
 アクシピターの爪が機械の体を引き裂く。
 切り口が発火し、サイバー・ダークは炎に包まれる。

万丈目準&丸藤翔のLP:2800→2500

 やがて炎が収まったとき、そこにいるのはただの細身の機械竜。
 力の源のドラゴンを失い、無防備な姿を晒している。

《鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン》ATK6900→2000

「これなら倒せるね!
 まだ俺の場に攻撃モンスターはいるよ!
 《冥王竜ヴァンダルギオン》で攻撃だ!
 『冥王葬送』!!」

 闇の衝撃波が放たれ、サイバー・ダークは飲み込まれる。
 その衝撃は翔にまで及ぶが――。

「そのダメージは受けない!
 リバースカードだ! 《ガード・ブロック》!
 ボクへの戦闘ダメージを無効にして、カードを1枚ドロー!」

《ガード・ブロック》
【罠カード】
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「ダメージは与えられない……か。
 でも、モンスターは倒しておくよ!
 《クロスライトニング・ワイバーン》!
 《ボマー・ドラゴン》に攻撃だ!
 『ライトニング・クリスクロス』!!」

 二頭から放たれた電撃が、《ボマー・ドラゴン》を十字に切り裂く。
 しかし、ワイバーンに死に際ながら的確に爆弾が投げつけられる。
 雷をまとった鱗に誘爆し、ワイバーンも共倒れとなった。

《ボマー・ドラゴン》 []
★★★
【ドラゴン族・効果】
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
このカードを破壊したモンスターを破壊する。
このカードの攻撃によって発生するお互いの戦闘ダメージは0になる。
ATK/1000 DEF/ 0

「よし!! これでがら空きになったよ!
 《限定解除》で召喚されたストルティオは破壊されちゃうけど、
 3体のモンスターが残ってる!
 俺はこれでターンエンドだ!」

万丈目準&丸藤翔
LP2500
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
なし
手札
2枚(翔)
陽向居明菜&久白翼
LP 600
モンスターゾーン
《輝鳥-イグニス・アクシピター》ATK4900、《冥王竜ヴァンダルギオン》ATK2800、《音速ダック》DEF700
魔法・罠ゾーン
《団結の力》(アクシピターに装備)
手札
0枚(翼)

「ほぅ……」

 万丈目にターンがまわるが、ドローの動作に移らない。
 腕組みをし、翼を観察している。

「なにやら懐かしいな……」

 ふと呟かれた言葉。
 翼には意味が通じず、思わずキョトンとしてしまう。
 その様子に気づき、万丈目はすまなそうに手をあげた。

「ああ、勝負に水を差したな。
 少し昔のことを思い出したんだ。
 デュエルを続けるとしよう」

「昔の……こと?」

「なに。お前の姿が違う奴に重なって見えただけだ。
 大したことじゃない。
 だが……」

 万丈目の声が一瞬だけ沈む。

「いや、大丈夫だろう。
 さして根性のない奴にも見えん。
 それに見守ってる奴もちゃんといるようだしな」

「万丈目くん、もったいぶらないで話しなよ。
 ボクも気になる」

「んー、そうだな。
 最初、翼が十代と重なって見えたんだ。
 藤原にも言われたしな。そうかもしれん、とは思った」

 思い返すように、万丈目は目線を上にやる。

「だがな。
 よく見てると、違う風に見えてきたんだ。
 どちらかというと……」

 少し言いづらいのか、万丈目は一呼吸を置き、それから続けた。

「昔のオレに重なって見えた気がしてな」

「昔の……万丈目くん……?」

 翔はうーんと考え込むが……。

「あのイヤミで子分連れてた頃とは全然ちが」

「おいやめろ。
 それじゃない。その少し後くらいだ」

「えとその後って、アニキに負けて、
 万丈目サンダーになって、それから白くなって、うーん……」

 翔は考え込むが、思い当たらないようだ。

「まぁ、オレにしか分からない感覚か。
 いいさ。よりも今はこの盤面を何とかするとしよう」

 フィールドに向き直り、ディスクを構える。

「オレのターンだ、ドロー!」

 カードを引いて、万丈目は少しだけ考え込む。

「8割……と言ったところか」

「8割? 一体何が……」

 翼が思わず問い返す。
 翼はターン終了時から違和感を覚えていた。
 目の前に3体の相手モンスターがいるのに、自分の場はがら空き。
 本来ならば相当追い詰められた状態のはずだ。
 しかし、万丈目には動揺している様子がない。
 それどころか翼を観察する余裕さえ見せる。

「ん? なに、この場を逆転するカードが揃う確率だ」

「!」

 平然と逆転宣言をする底知れなさ。
 やっぱりプロの腕前は計りしれない。
 翼にそう思わせるほどに、万丈目は悠然と振舞っていた。

「いくぞ! 《貪欲な壺》を発動!
 墓地のカードを5枚墓地に戻し、カードを2枚ドローする!
 アームド・ドラゴン、レベル3とレベル5。
 光と闇の竜と鎧黒竜にFGDをデッキに戻して、2枚ドローだ!」

《貪欲な壺》
【魔法カード】
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 引いたカードを見て、万丈目は嫌そうな顔をする。

「チッ、何でよりによってこいつを引くんだ。
 ……まぁ、それはそれで繋がるかもしれんな」

 不敵な笑みを浮かべ、手札をすべて指にはさむ。

「モンスターをセット!
 リバースを2枚伏せて、ターン終了だ!」

「あたしのターン、ドロー!」

 手札補充した後のカードのセット。
 どう考えても、罠が仕掛けられている。
 攻めるチャンスではあるが、慎重に行く必要があるだろう。

「あたしは《音速ダック》を生贄に捧げて――」

 短い羽をパタパタさせながら、ダックは生贄に捧げられる。

「来て! 《サンライズ・ドラゴン》!!」

 澄んだライラック色の4枚羽を持つ飛竜。
 じっと裏側表示のモンスターをうかがう。

「ここは少し慎重にいくよ。
 《冥王竜ヴァンダルギオン》は守備表示に変更する!」

 3体の大型モンスターが揃った今は戦力が十二分にある。
 攻撃反応の罠を警戒しても、ライフを削りきることができる。

「《サンライズ・ドラゴン》は《サンセット・ドラゴン》の対になるモンスター!
 裏側表示モンスターを表側にする力がある!
 バトルフェイズを開始して、効果を発動するよ!
 裏側表示のモンスターを、表側攻撃表示に変更する!
 朝焼けの光、『リヴィール・サンライズ』!!」

 《サンライズ・ドラゴン》が薄紫の幻想的な光を放ち、モンスターを目覚めに誘う。
 裏側守備表示の下級モンスターを暴けば、ダメージは期待できるが――。

《サンライズ・ドラゴン》 []
★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
自分のバトルフェイズ開始時に1度だけ、
裏側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、
表側攻撃表示にする事ができる。
ATK/2400 DEF/1600

「なるほど、ならばその効果発動にチェーン! リバース発動だ!」

 万丈目がすかさず手をかざす。

「このタイミングで!?
 モンスター効果発動を読まれた?」

「いや、そういうわけじゃないが、
 一応モンスターは温存しておきたいからな。
 もっとも、こいつは串刺しにしてもやられない奴だがな……」

 万丈目が悪い顔をしながら、トラップ発動を宣言する。

「トラップは《つり天井》だ!!
 フィールドに4体以上のモンスターがいるときのみ発動できる!
 表側表示のモンスターはすべて破壊だ!
 オレのモンスターはまだ裏側表示のままだから破壊されない!」

《つり天井》
【罠カード】
フィールド上にモンスターが4体以上存在する場合に発動する事ができる。
フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

「!! モンスターが全滅!?
 並べたことを逆手に取るなんて……。
 で、でも、《サンライズ・ドラゴン》の効果も残ってる!
 あたし達のモンスター3体は破壊されるけど、
 そのモンスターは表にするよ!」

 無数の針が敷き詰められた天井により、翼と明菜の場は一網打尽にされる。
 そして、《サンライズ・ドラゴン》が最後の輝きでモンスターを暴き出す。
 伏せていたことで、《つり天井》に触れずに済んだモンスターは――。

(んん〜、なんだか眩しいのー。
 おいらを起こそうとするのは、誰〜?
 って、何! このトゲトゲの天井!
 いきなりどういうことなの!?)

 黄色い二足歩行のカエルのような、不細工なモンスター。
 万丈目のデッキを代表するモンスター、《おジャマ・イエロー》である。

《おジャマ・イエロー》 []
★★
【獣族】
あらゆる手段を使ってジャマをすると言われているおジャマトリオの一員。
三人揃うと何かが起こると言われている。
ATK/ 0 DEF/1000

「お前ごと串刺しにしても良かったんだがな。
 生贄ぐらいには使えるから、生かしてやった。
 感謝するんだな」

(万丈目のアニキ、なんだかんだでやっぱり救ってくれたのね〜。
 ありがとー!)

「おい! こら、こっちに抱きつこうとするな!
 気持ち悪い! それにまだ相手ターンだぞ!」

 《おジャマ・イエロー》は精霊の宿るカードである。
 しかし、一般人にはその姿や声を感知することはできない。
 万丈目が独り言を呟きながら、《おジャマ・イエロー》とじゃれ合っている。
 テレビでも、もはやお馴染みの光景として認知されていた。
 だが、その様子を新たな驚きとともに視る者もいた。

「《おジャマ・イエロー》……。
 やけに動くソリッドビジョンだと思ったら、
 やっぱり精霊が宿ってたんだ!」

(ん? なんだかおいらの存在が分かるボウヤがいるようね?
 万丈目のアニキ、また面白そうな奴と戦ってるじゃない)

「ああ、デッキから随分賑やかな気配がすると思ったが、やっぱりそうだったか。
 翼、お前にもどうやら見えているようだな」

「はい! 俺にも精霊の力があるんです。
 でも、さすが万丈目サンダーさん。
 やっぱり漫才コンビみたいに息がピッタリだなぁ……」

 翼は褒めたつもりだったが、万丈目は腕組みをし、無愛想に鼻先でふんと鳴らす。

「とんだ腐れ縁だ。まぁ修羅場をかいくぐってきた仲ではあるんだがな。
 さて、モンスターの数が逆転したぞ。
 ここからどう立て直す?」

 万丈目は明菜に問いかける。
 残る手札は1枚。できることは限られている。

「もうバトルはできないけど、やるしかない……」

 明菜は意を決して1枚の手札を目の前に掲げた。

「融合魔法発動! 《龍の鏡》!!
 墓地から融合素材を除外して、ドラゴン融合モンスターを召喚する!
 あたしは墓地の《サンライズ・ドラゴン》と《サンセット・ドラゴン》を除外融合!」

《龍の鏡》
【魔法カード】
自分のフィールド上または墓地から、
融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、
ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 黄金の鏡が現れ、凄まじい旋風が巻き起こる。
 そこに2体の翼竜が吸い込まれ、鏡は眩い光をはなつ。

「融合召喚! 《太陽竜リヴェイラ》!!
 守備表示で特殊召喚するよ!」

《太陽竜リヴェイラ》 []
★★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
「サンライズ・ドラゴン」+「サンセット・ドラゴン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
???
ATK/2400 DEF/2400

 6枚の羽を持つ黄金に輝く白竜。
 羽を折り重ね、太陽のように丸まり、相手の出方を伺う。

「これであたしはターンエンドするよ!」

万丈目準&丸藤翔
LP2500
モンスターゾーン
《おジャマ・イエロー》ATK 0
魔法・罠ゾーン
伏せ×2
手札
0枚(万丈目)
陽向居明菜&久白翼
LP 600
モンスターゾーン
《太陽竜リヴェイラ》ATK2400
魔法・罠ゾーン
《団結の力》(アクシピターに装備)
手札
0枚(明菜)

「よし! ボクのターンだ、ドロー!」

 引いたカードを手札に加え、改めて万丈目の伏せたカードを確認する。

「あっ!」

 翔は思わず声をあげてしまった。

「どうした? オレのやったカードが、そんなに気に入ったか?」

 万丈目が不敵に問いかける。

「うん……。この場では、最高のカードだ。
 それに生贄要員だって、しっかり確保してくれた!
 これなら――いける!」

「そ、そうか」

 穏やかな普段からすれば珍しく勢いづいた翔の表情。
 万丈目は思わず上ずった声を上げてしまう。

「いくよ! ボクは手札から《戦線復活の代償》を発動する!
 このカードは通常モンスターを生贄に、モンスターを蘇生させるカード!
 普段は《ハウンド・ドラゴン》とかを生贄に捧げるんだけど、
 今回は万丈目くんの《おジャマ・イエロー》を借りるよ!」

《戦線復活の代償》
【魔法カード・装備】
自分フィールド上の通常モンスター1体を墓地へ送って発動する。
自分または相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して自分フィールド上に
特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、装備モンスターを破壊する。

(ひいぃ! やっぱり生贄にされるだけの扱い〜。
 これで出番おしまいなんてあんまりよー)

 《おジャマ・イエロー》の嘆きをよそに、翔は意気揚々と墓地からカードを選び出す。

「墓地から特殊召喚するのは、《プロト・サイバー・ドラゴン》だ!
 さらに万丈目くんの伏せカード、《地獄の暴走召喚》を発動!
 ボクの場に攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚されたとき、
 デッキ・墓地・手札から同じ『名前』のモンスターを特殊召喚する!
 相手もこの効果を使えるけど、融合モンスターなら直接の特殊召喚はできない!」

《地獄の暴走召喚》
【魔法カード・速攻】
相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に
攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。
その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを
自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する。
相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。

「うう……、そもそもリヴェイラは融合以外の特殊召喚もできないけどね……」

「ボクはデッキから2体の《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 一体の細身の機械竜の両脇に、精巧なメタリックボディの機械竜が並び立つ。

「って、ええ!? なんで《サイバー・ドラゴン》が召喚されてるの!?」

「《プロト・サイバー・ドラゴン》はフィールドでは《サイバー・ドラゴン》として扱う。
 だから、呼ばれるのはデッキの《サイバー・ドラゴン》だ!」

《プロト・サイバー・ドラゴン》 []
★★★
【機械族・効果】
このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、
カード名を「サイバー・ドラゴン」として扱う。
ATK/1100 DEF/ 600

「なるほど……、すごい召喚コンボ……。
 てことは、今フィールドには3体の《サイバー・ドラゴン》がいることになるから――」

 明菜の嫌な予感を厳然たる事実に塗り替えるように。
 翔は力強くカードを目の前に掲げる。

「ボクも融合魔法《融合》を発動するよ!
 場の3体の《サイバー・ドラゴン》を融合させる!」

 3体の機械竜を飲み込む巨大な融合の渦。
 白い電流が駆け巡り、機械竜はチューンアップされていく。
 それは進化の最終形態。サイバー流の最終段階。
 真なる継承者のみが扱える最強の機械竜。

「《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚だ!」

 胸の青いコアから三ツ首が伸び、機械音とともに咆哮する。
 巨大なパネルのような双翼が、エナジーを集めるように広げられる。
 その巨大さ、その威圧感、その精巧なフォルム。
 サイバー流の集大成のモンスターが、今ここで明菜たちの前に立ちふさがる。

《サイバー・エンド・ドラゴン》 []
★★★★★★★★★★
【機械族・効果】
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
ATK/4000 DEF/2800

「《サイバー・エンド・ドラゴン》……ッ!
 まさかここで召喚してくるなんて……」

 人気モンスターの登場に会場は大いに湧いている。
 カメラのフラッシュもひっきりなしに瞬く。
 巨大なる白銀の機械竜。
 対峙する黄金の光を放つ白き翼竜。
 確かに絵になるモンスターの構図である。

「《サイバー・エンド・ドラゴン》は貫通効果を持つ!
 守備表示でもダメージは通るよ!
 バトルだ! 《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃!
 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!!」

 3つの頭が、寸分の狂いもなく同時にエネルギーを充填する。
 口に蓄えられる凄まじいエナジーを目の前に。
 守備体制のリヴェイラが翼を広げて動き出す。

「なら、リヴェイラの効果を発動するよ!
 『サンセット・ヴェール』!!
 《サイバー・エンド・ドラゴン》を裏守備表示に変更する!
 リヴェイラならこの効果を相手ターンにも発動できる!」

 リヴェイラは黄昏色の光を放ち、サイバー・エンドを沈黙に誘う。
 蓄えられたエナジーが静まり、鋼の翼を閉じて守備表示となる。

《太陽竜リヴェイラ》 []
★★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
「サンライズ・ドラゴン」+「サンセット・ドラゴン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
1ターンに1度、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
次の効果は相手のバトルフェイズ開始時にも1度だけ発動する事ができる。
●表側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、裏側守備表示にする。
●裏側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示にする。
ATK/2400 DEF/2400

「かわされたか……。
 でも、サイバー・エンドの守備力は2800ポイントだ!
 そう簡単には破壊できないよ!
 ボクはカードを1枚伏せて、ターンを終了する!」


「翔のやつ……。完璧にサイバー流デッキを使いこなしてるな。
 パートナーのカードもうまく使って、サイバー・エンドを召喚するとはな。
 俺もこのままくすぶっているわけにはいかないな」

 丸藤が満足げにデュエルの展開を振り返る。

「それにしても本当にいいタッグデュエルだ。
 どちらのタッグも息がピッタリだ。
 これは本当にどちらが勝つか分からないかもしれないな」

「丸藤、それは買い被りすぎじゃないか?」

「いや、もうここまで来たら、そういうわけでもないだろう。
 既に全員の手札が尽きている。
 後は純粋な引き勝負になってくる。
 俺の見立てでは、あの二人のドロー力はかなり強いようだが、どうだ?」

「……そうだな。確かにいいところまでいけるかもしれない。
 しかし……」

「どうした?」

「気のせいか。久白の表情が妙に硬いと思ってな。
 前のデュエルのときは、逆境でも明るかったんだが。
 今回は何が違うんだろうな……」

万丈目準&丸藤翔
LP2500
モンスターゾーン
裏守備モンスター(《サイバー・エンド・ドラゴン》DEF2800)
魔法・罠ゾーン
なし
手札
0枚(翔)
陽向居明菜&久白翼
LP 600
モンスターゾーン
《太陽竜リヴェイラ》ATK2400
魔法・罠ゾーン
なし
手札
0枚(翼)


 翼は険しい表情でフィールドを見つめていた。
 《つり天井》で全滅させられたのは痛かった。
 でも、明菜はトラップを警戒していて、ちゃんとリヴェイラを召喚した。
 それにサイバー・エンドの反撃まで防いでくれた。
 今度は自分がやり遂げなくてはならない。
 注目の舞台に恥じないデュエルをするためにも。
 絶対に食らいつかなくちゃいけない。

「俺のターンだ、ドロー!!」

 力強く引き抜いた。
 何を引けば勝てるのかも、思い浮かべないまま。
 何かに突き動かされるように、ただ前に歩みを進めた。
 妙な焦燥感に駆られながらも、翼はやっとカードを確認する。

「このカードなら!」

 安堵するとともに、思わず声が出てしまう。
 この場面で引くには理想的なカードだ。
 左手で握りこぶしを作りながら、翼は右手を振りかざす。

「俺はリヴェイラの効果を発動する!
 『リヴィール・サンライズ』!
 《サイバー・エンド・ドラゴン》を表側攻撃表示に変更だ!」

「ボクのサイバー・エンドを攻撃表示に変更だって!?
 守備力より攻撃力の方が圧倒的に高いのに!
 まさか逆転のカードを引いたの!?」

 翔の動揺に手応えを感じつつ、逆転の一手を見せつける。

「そして、俺は魔法カード《フォース》を発動する!
 《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力の半分を吸収して、
 リヴェイラに加えるよ! だから、攻撃力は――」

《フォース》
【魔法カード】
フィールド上に表側表示で存在するモンスター2体を選択して発動する。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスター1体の攻撃力を半分にし、
その数値分もう1体のモンスターの攻撃力をアップする。

《サイバー・エンド・ドラゴン》ATK4000→2000
《太陽竜リヴェイラ》ATK2400→4400

 逆転した攻撃力。
 ギャラリーは驚きと歓声に包まれる。
 翔の反応から見ても、攻撃が通るのは確実。
 この攻撃は、間違いなく今できる最高の反撃だ。

「リヴェイラの攻撃だ!
 『プラスフォース・サンシャイン・バースト』!!」

 機械のエナジーを取り込み、自らの太陽の力とともに破壊レーザーを放つ。
 電磁波と熱波の交差する超威力の極太の光線。
 サイバー・エンドの中心核に風穴を開け、圧倒的に撃破する。

「やった! 俺はこれでターンエンドだ!」

 万丈目は腕組みをして、翼の様子を観察していた。
 一つ前の自分のターンに感じていた漠然とした懐かしさ。
 形がなくても、心のどこかを切なくさせるような何か。
 その感覚はもはや心の手で捉えられるほどに鮮明だった。

「翼、お前は何に追われているんだ。
 何をそんなに思いつめたような表情をしている」

「俺はそんなことは……」

 思いもよらない指摘に、翼はたじろぐ。

「自覚はないようだな。
 だが、自分はこうしなくちゃ、と言い聞かせてばかりいたんじゃないか?」

「そりゃそうだけど、勝たなくちゃいけないってのは誰でも思うよ!
 ましてタッグパートナーが頑張っているんだから、俺だって!」

「そうだな。表面的には当たり前なんだろうな。
 だが、どうにも過去のオレと同じような危うさを感じてしまってな」

「過去の万丈目サンダーさん……?」

「ああ、そうだ。あの頃の何も余裕のなかったオレだ。
 オレの境遇はあまり知らないだろうが、そこの兄どもとの繋がりは分かるだろう?
 政界、財界で成功した万丈目グループの先人たち。
 オレはそのプレッシャーに突き動かされて、ただひたすらに焦っていた。
 負けたらダメだ。立ち止まるわけにはいかない。
 自分を脅してばかりだったのかもしれないな」

 懐かしそうに、感慨深げに。
 何年も前に、このデュエル場で闘ったときを思い返しながら。
 万丈目はゆっくりと語りかけた。

「そう……かもしれないけど、でも、前に進もうとするのに、悪いことなんて――」

「誰も悪いだなんて言ってないだろ。
 そのままでいい。今はそうするしかない。
 そうやってもがいているうちに、どうにかなっていく。
 勝手に経験して、適当に理由が整えられていくんだ。
 そのうちに余裕も勢いもついてくる」

「万丈目サンダーさんは……」

 翼もまた、疑問に思っていたことを問いかけたくなる。
 相手は熱を持って、自分に言葉を投げかけてくれる。
 もっとその熱を感じていたいなら、こっちからも言葉を投げかけるんだ。

「万丈目サンダーさんは、どうしてそんなに余裕なんですか?
 この試合だって、最初にお兄さんたちに『引退』を賭けられていた。
 それなのにどうしてこんな余裕でデュエルに臨めるんですか?」

「……確かに不思議だろうな。
 3年前のオレが今のオレを見たなら、同じ疑問を持つかもしれない」

 しみじみと翼の言葉を受け止めながら、万丈目は優しく続ける。

「答えは、今まで『何とかなってきた』からだ。
 アカデミアにいたときも、プロになるときもなった後も、いろんなことがあった。
 だが、這い上がったり、周りがどうにかしてくれたり、『何とかなってきた』んだ。
 だから、今だってオレが負けようと、何とかなると思っている。
 負けたら負けたで、変な注目を浴びるだろうしな。
 そこの翔と組んで、おジャマ・イエロー&ブラックでリベンジマッチしてもいい。
 今までどおりにオレは這い上がってみせる。
 だからどうなろうが、オレはオレでその先に進むだけだ」

 万丈目は気取るわけでもなく、ただ自然に前向きに語りきった。
 その毅然とした強さを、翼は心の中に焼き付けた。

「今こうして言ったところで、今だけ少し分かった気になるだけだろう。
 だが、それでいい。本当に分かるのは、自分で経験してからだ。
 自分自身から逃げ出さないなら、そのうちお前にも『何か』が分かってくるはずだ」

「ありがとう、万丈目サンダーさん!
 言うとおり、何となく分かった気がするよ!
 だから、逃げずに向かって、頑張っていくよ!!」

 翼は少し強ばっていた表情を振り切って、自然に笑いかけた。

「ああ。アカデミア1年でここまでできるんだからな。
 お前たちの未来にも期待させてもらおう。
 さて……」

 万丈目はデッキに向き直り、右手を構えた。

「先輩のように大口を叩いたからには、大層なことをしでかさなくちゃいけないな。
 《太陽竜リヴェイラ》……。
 攻撃を一度封じてくる厄介なモンスターだが、どうするか。
 2体の上級モンスターを並べるか、それとも……」

 万丈目もまた勝ち筋が思い浮かばないまま。
 しかし、それを恐れることもなく、未来を引き抜いた。

「ドロー」

 静かに自分の引いたカードを確認し、翔の伏せたカードと照らし合わせる。

「そうか。こんな可能性もあったのか。
 やはりタッグデュエルは学ぶことが多いな。
 自分のデッキの広がりの選択肢。
 自分だけでは見えてこない可能性。
 オレたちも、オレたちのデッキも、まだまだ進化していく」

 万丈目はリヴェイラに鋭い視線を向ける。

「オレは《ファントム・オブ・カオス》を召喚する!」

 万丈目が召喚したのは、黒い水溜まりのようなモンスター。
 形が定まらず揺らめき、主の指示を待っているようだ。

《ファントム・オブ・カオス》 []
★★★★
【悪魔族・効果】
???
ATK/ 0 DEF/ 0

「攻撃力ゼロのモンスター?」

「そうだ。だが、強力な効果を持っている。
 墓地の《アームド・ドラゴン LV7》を除外して効果発動!
 そのモンスターの『名前』と攻撃力と効果を得る!
 もっとも1ターン限りの効果で、相手にダメージを与えられないがな」

《ファントム・オブ・カオス》 []
★★★★
【悪魔族・効果】
自分の墓地に存在する効果モンスター1体を選択し、ゲームから除外する事ができる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、
選択したモンスターと同じ攻撃力とモンスター効果を得る。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。
ATK/ 0 DEF/ 0

 魂の形を定義されると、黒き淀みは瞬く間に姿を変えていく。
 そして、その風貌を薄墨のような闇で禍々しく写し取る。
 刺々しく攻撃的な武装竜――《アームド・ドラゴン LV7》へと姿を変える。

《アームド・ドラゴン LV7》(コピー) []
★★★★
【悪魔族・効果】
このカードは通常召喚できない。
「アームド・ドラゴン LV5」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。
手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、
そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。
このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。
ATK/2800 DEF/ 0

「一気に上級モンスターに変身した!
 けど、まだリヴェイラを倒せないよ!」

「そうだ。だから、翔。
 お前の力を借りるぞ」

 万丈目は伏せカードに手をかけ、勢い良く開いた。

「最後のリバース発動だ! 《融合回収》!
 墓地の《融合》カードと、素材に使われたモンスターを手札に加える。
 俺が手札に加える融合素材モンスターは、《アームド・ドラゴン LV10》だ!!」

《融合回収》
【魔法カード】
自分の墓地に存在する「融合」魔法カード1枚と、
融合に使用した融合素材モンスター1体を手札に加える。

「《アームド・ドラゴン LV10》!?
 いつ融合素材に使って――」

《F・G・D》ファイブ・ゴッド・ドラゴンの未来融合の素材だ。
 オレは《融合》を使ってないが、翔のカードも共有できる。
 これで必要なカードはすべて揃った……」

 最初から仕組まれていたかのように繋がった回収コンボ。
 その1枚が繰り出され、《ファントム・オブ・カオス》の闇が薄れていく。

「場の《アームド・ドラゴン LV7》を生贄に捧げる!
 レベルアップ進化! 《アームド・ドラゴン LV10》!!」

 武装竜は最終形態へと進化を遂げる。
 レベル3の頃のトカゲのような面影はもう残っていない。
 あらゆる武装を使いこなすヒトの形態へと進化した。
 凶暴性を内包した赤鬼のような筋肉を、鋭利なる白銀の武装が統御する。

《アームド・ドラゴン LV10》 []
★★★★★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
このカードは通常召喚できない。 自分フィールド上に存在する「アームド・ドラゴン LV7」1体を
生贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
手札を1枚墓地へ送る事で、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。
ATK/3000 DEF/2000

「手札の《融合》を墓地に送り、効果発動だ!
 『ジェノサイド・ヘヴン』!!
 相手の表側モンスターをすべて破壊する!」

 自らの刃の両翼をもぎ取り、凄まじい勢いで投げつける。
 リヴェイラの首を的確に狙うクロスカッター。
 熟練した武技に成すすべなく、太陽竜は撃破される。

 そして、剣のように鋭い眼光が翼に狙いを定める。

「またお前たちとデュエルできるときが楽しみだ。
 『デュエル・スター』を目指すんだったな。
 お前の夢から逃げるな。背負うものからも逃げるな。
 だが、道はまっすぐじゃない。落ちても這い上がって来い。
 お前がお前でいる限り、失敗したって道は切り開ける」

「励ましてくれてありがとう!
 俺は絶対に『デュエル・スター』になる!
 だから、万丈目サンダーさんもプロの舞台で待っててよ!
 今度は俺がアッと言わせるような手で勝ってみせる!
 それまで精一杯ぶつかって、腕を磨いておくよ」

「ああ、期待している。
 さあ、最後の攻撃だ! ダイレクトアタック!
 《アームド・ドラゴン LV10》!
 『アームド・ビッグ・パニッシャー』!!」

 豪腕から繰り出される爪の斬撃。
 白熱した激戦は、先輩デュエリストの勝利で幕を閉じた。

陽向居明菜&久白翼のLP:600→ 0


 このデュエルの後、明菜と翼の二人はちょっとした有名人になった。
 負けたとはいえ、プロ2人のライフを残り100ポイントまで追い詰めたのだ。
 それがテレビ放映までされたのだから、反響は大きい。
 本当にプロの資質があるのか、調査に乗り出した企業もあった。
 しかし、筆記試験の結果を見せるやいなや、首を捻りながら帰っていった。
 自分のデュエルはできても、相手のカードについての知識がほとんどなかったのだ。
 翼と明菜にもその自覚はあった。
 まだまだ未熟だ。もっと土台を固めてからじゃないと、ちゃんとしたプロにはなれない。
 だから、本人たちも無理にデビューへの足掛かりを掴もうとしなかった。
 二人とも『まだアカデミアでやらなくちゃいけないことがある』と、意味深に話すこともあった。

「とはいえ、君たちは素晴らしい勝負をしてくれた。
 私からプレゼントをしたいと思うんだが、何かほしいものはあるかい。
 私のできる範囲で何でもプレゼントしようと思う」

 鮫島校長は先のデュエルを高く評価し、二人に賞品を与えたいと伝えた。
 すると、二人は少し思いつめたような表情を見せた。

「すぐに思いつかないなら、後からでもいいんだが……」

 時間の猶予を申し出ようとすると、「そういうわけじゃない」と否定する。
 そして、明菜が意を決したように、一歩前に出て問いかける。

「校長先生はあたしたちが災厄に襲われたことは知ってますよね。
 それにあたしの境遇のことも……。
 校長先生、あの災厄についての知ってる限りの情報と、
 それとあの子を救う方法を教えてください」

 明菜の絞るような声を聴き、鮫島校長は神妙に口を開く。

「私は確かに君たちの境遇を把握している。
 鏡原オーナーとも現役時代からの知り合いだ。
 だから役立つことを知っていれば、すぐにサポートする。
 ……つまり、私にはそれについて助力できることがないんだ。
 あの災厄のことも原因が分かっていない。
 君の妹を救う方法も私には……、すまない」

「そう……ですか」

 鮫島校長の優しく労わるような口調が、逆に明菜をつらい気分にさせる。
 つまり、もうできることはないから、後は丁寧に傷つけないように言っただけなのだ。
 乱暴でも何かできたほうが、明菜にとっては慰めにもなった。
 たくさんのことを知ってるはずの人から分からないと謝られる。
 かえって本当に何もやりようがないようで、明菜はどうしようもない気持ちになる。

「無理なお願いをして、すいません。
 なら、あたしは特にほしいものはないです。
 だから、その分翼にプレゼントしてあげて下さい」

 無理に笑って、明菜は引き下がった。
 翼は気まずい話題を切り上げようと、前に歩み出る。

「じゃあ、俺のお願いを聞いてください」

 翼もまた真面目な表情で申し出る。
 鮫島校長は、あの藤原からさえ真面目と評される二人の性格について、
 この肌に染みるプレッシャーを受けながら、再確認しつつあった。
 ――プレゼントといえば、欲しいカードとか寮の設備でも言ってくれればいいのに。
 そう語りかけたくなる気持ちを抑えながら、翼のまっすぐな眼差しに向き合う。

「斗賀乃先生とデュエルさせてください」

 その珍妙な申し出に、鮫島校長は目をぱちくりとする。

「構わないが……、どうして彼、斗賀乃先生とデュエルしたいのかね?」

「俺が前に進むためには、あの人に挑まなくちゃいけない、そんな気がするんです。
 今は敵わないかもしれないけど、それでも挑んでみたい。
 これは俺にとって大事なことなんです」

 自分と同じ能力を持つ斗賀乃先生。
 そして、その能力についてすべてを知っているような先生。
 ――お前の夢から逃げるな。背負うものからも逃げるな。
 万丈目が翼に伝えた言葉。
 自分に本当に向き合うならば、斗賀乃先生と向き合うことも避けて通れない。

「分かった。斗賀乃先生とのデュエルをセッティングしよう。
 君にとって大事なデュエルのようだから、きちんと準備なさい」

 本当の自分を知るために、闘わなくてはいけない相手。
 迫る運命の決闘を思い描き、翼は自分のデッキを強く握り締めた。




第8話 負けたくない闘い(仮題) に続く...