1989年6月4日(水)「赤旗日曜版」

女子高生監禁殺人事件を考える

 東京・足立区で起きた女子高生監禁殺人
事件は、子育てや家庭のあり方と関連して
各地の活動家の集まりなどで話題になって
います。先ごろ東京・新宿区で開かれた婦
人の集いのなかでも”子どもとともに育ち
あう活動を”と熱心に話し合あれました。

子どもとともに
育ちあう活動を
東京・新宿で婦人の集い

 この集いには二十六人が参加。仕事も、看護婦、保母、大学職員、民間企業、
民主団体や労働組合の役員などさまざま。中学校や高校生の子どもをもつ四十代
の婦人がほとんどでした。

子との信頼関
係どうつくる

 同じ活動や共働きをしている家庭として事件をどう見るのか。
女子高校生が監禁されていた家の両親が共産党員だったことは、衝撃だったよう
です。
 「ショックでした。親はなにをしていたのか。でも人ごとではない。子どもと
の信頼関係をどうつくっていくかは自分の課題でもあります」

親の生き方胸をはって語り
−−−−−−−−−−−−
いそがしいからこそしっかり目を向けて

 「仲間が夫婦と悩みをいっしょに考えてあげられなかったのでしょうか。仲間
のなかで裸になって相談し、解決できる関係やあり方を追求していくことが大
事」
 「身につまされる思いです。あの家庭が特殊な家庭だったとは思われない。こ
んな社会状況のなかでは、どの子も、つまずきの危険にさらされているので
は…」
 自分の子育てや家庭についても話しあわれました。中には一気に十五分も話す人
もいました。
 仕事と組合活動で多忙なある母親は、「小学六年の娘も食事のしたくなど家庭
のなかで一役買っているが、勉強ができなくて当たり前という態度を示す」と
話し、別の母親は「忙しさのなかで自分サイドで子どもをふり回している感じが
する」と発言。また、「娘は落ちこぼれ寸前、夫は学童の運動で帰宅はいつも遅
く、子どもから「お父さん、学童のことやめてほしい」といわれている」「母
親は、母親集会などで子育てを学ぶ機会はあるが、父親は子育てを学んでいない
のではないか」などの発言が相次ぎました。

 本当の意味で
 の親の背中を
 
 集いでは、活動と子育てについてどう考えたらよいのか、という問題もだされ
ました。
 ある母親は、子育てにとって活動はマイナスではないのかと発言。子どもと接
する時間がもっと必要だが、現状では置きざりという感じになっている。活動
と子育てが競合しているように思える−−というのです。
 これにたいして、活動することに原因があるのではなく、子どもとのかかわり
方に問題があるのではないかと、ある母親が切々と語りました。
 「働き、活動しながら子育てにも必死にがんばってきました。でも、子どもに
たいする対応はどうだったか。職場の若い人たちにはていねいに活動の中身を教
え、相談にのってきまきたが、子どもたちにもそうやってきただろうかと思いま
す。さびしい思いをしていたかも知れません」と。
 また、「二人の子どもは共産党に入りました。胸をはって親の生き方、姿勢を
示せば子どもにもわかってもらえる。本当の意味で親の背中をみせることが大事
ではないでしょうか」と話す共産党員の婦人もいました。
 忙しいからこそ子どもに目をむけることが大切だと語った別の母親は、「中学
生の子どもと時間をみつけてテニスをするようにしています。PTAの役員もし
ていますが、自分が目が届かないところは地域の目で声をかけてほしいと思う
からです」と発言しました。
 こうした論議や助言者の東京総合教育センター長の石川二郎さんや高校の教師
の話を通じて、参加者は今後の子育てについて深く考えさせられたといいます。

 おかしいと思
 ったらすぐに

 参加者の感想から−− 「たいへんよかった。一人ひとりが方向性を模索し
て努力している内容がリアルで涙がでました」
 「たくましく活動している話をきき勇気づけられました。子どもたちを救える
のは、まさにそういう活動以外にないと思います」
 「子どもが疲れる状況におかれていることを両親が共通の認識でとらえ、おか
しいと思ったら後でと思わずに話をする必要がある」
 この集いを契機に、人間らしく生きる社会をめざして自信をもってさらに−−
そんな決意に満ちていました。

 

子どもの目線で見、考え
一緒に解決の道を

東京総合教育センター長
石川二郎さんの話

 この集いに助言者として参加した東京総合教育センター長の石川二郎さんに、
活動家と子育てなどについてききました。
 東京総合教育センターには、五月だけですでに六十件の相談がきています。登
校拒否、中退問題、非行などさまざまです。深刻な事態のものもあります。

 親としてのか
 かわりかたが

 私どもの教育センタでは、相談を受け、場合によっては家庭と学校を結ぶ役
割もしています。あの事件でも、両親がもし相談してくれていたらと思ったりも
します。
 教育センターでの相談活動を通しても思いますし、新宿での集いでも思ったの
ですが、子どもにたいする親のかかわり方が気になります。

 はっきりさせなければいけないと思うのは、子どもの非行やくずれは親の活動
や生き方に原因があるのではなく、親としてのかかわり方や姿勢に問題があるの
ではないかということです。
 子どもにとって家庭は、心のやすらぎの場です。その家庭を子どもといっしょに
なってつくっていくという気持ちが大切です。親がどんな活動をしているのか、
なぜ活動しているのかといったことを子どもの発達段階に応じて語る努力も必要
でしょう。
 同時に子供の節目節目の変化をよくつかみ、真正面からむきあう真剣な姿勢
が大事です。子どもは急激に成長します。とくに中高生時代の思春期は、子ども
にとってはあらしのようなものだと思います。先が見えない不安、悩み、動揺。
そんなときには、あたたかい理解、いっしょになって解決への道を考えるきめ細
かな援助が必要です。問題行動を起こしたときには、人間として大事なことはな
んなのかをきびしく教え、励ましてやることではないでしょうか。日常的、具体
的な子育ての心をもつことです。子育てとは本来よろこびであるはずです。子どもの
すこやかな成長や、子どもの笑顔のためにはためらわない、苦労をいとわない。

 団らんの時間
 をきちんと…

 夫婦の協力や認識の一致が大事です。父親のための子育て学習会。子育てを学
ぶ機会はたしかに少ないでしょう。し か し、夫婦の”不協和音”はよくありま
せん。夫婦が一致した教育方針で子供に接することが欠かせません。
 父親に共通しているのではないかと思うのは、自分の人生観や社会観を一方的
におしつけてはいまいかということです。「自分の若いころは…」「こうあるべ
きだ」「こう行動することが正しい」と。子どもの目線でものを見、考えてやら
ないと反発をまねくことになります。
 また、多忙な日々のなかで朝食だけは家族全員がいっしょに食べるとか、月一
回は家族でどこかへいったり団らんの時間をとるなどの努力は必要です。それそ
れの家庭の知恵と工夫があると思います。
 ふだんはなかなか時間がとれなくても、子どもの変化を認めたときには、なん
としても時間をさき、じっくりと話しあい、対応することが大事ではないでしょ
うか。
 そうした努力とともに、感動や共感、人間賛歌のドラマが見いだせるような生
きいきとした家庭を心がけたいものです。


 子育てネット
 ワークも必要

もちろん、一家庭だけでは解決できない問題もあります。
 ”子どものなかに情勢をみる”といわれます。日本の政治、社会状況がもっと
も子どもにあらわれます。子どもはそういう意味で感度のよいフィルムであり、
社会の鏡てす。ですから家庭とともに、学校や地域の子育てネットワークが必要
です。
 この点では、教育を語る会や教育懇談会、少年少女組織、あるいは新婦人の子
育て小組などゆたかな実践、蓄積があるわけです。こうした力に確信をもち、
いっそう発展させていくことが大事だと思います。
 子育てや教育の悩みは多くの親の悩みです。活動家がその多くの人たちと手を
とりあい、確信をもって解決の先頭にたつことがいまもとめられているのではな
いでしょうか。