引用箇所は赤太字、下線部分

1989年4月30日(水)「赤旗日曜版」

女子高生監禁殺人事件を考える
家庭、学校に大きな衝撃

 埼玉県三郷市の女子高生=当時十七歳=が東京都足立区の非行少
年グループに四十日も監禁されたうえ殺害され、死体をコンクリー
ト詰めにして捨てられた事件は、家庭や学校に大きな波紋をひろげ
ています。グループのなかに両親が共産党員だった少年がいたとい
うことで本紙などへさまざまな投書や質問が寄せられています。ま
た地方選挙なのでこのことを利用した反共攻撃もでています。そこ
で事件の取材にあたった記者で語りあってみました。

深い子育て、
−−−−−−
教育への悩み

 A こんどの事件は、少年たちの無軌道ぶり、残忍さなどで大きな衝撃を与え
た。
 C 「なぜあんな事件が起きたのか」「家庭はどうなっていたのか」などさま
ざまな投書や質問が編集局にも寄せられている。
 B 事件に関係した少年たちと同じ世代の子どもを持つ親たちは、そうした問
いかけ自らにもし、教育や家庭について考えたのではないか。
 D 絶対に起こしてはならない事件だ。女子高生の親の気持を思うといたた
まれない。事件を起こした少年たちの親の監督責任はきわめて重大だが、同時に
親の苦悩も想像以上のものがあると思う。多くの親たちも子育て、教育について
の悩みは深い。
 A 少年や親の責任はもちろんあるが、現代の社会病理として見つめる目も大
事だと思う。
 C もちろん、親の責任はあるだろう。監禁場所となった少年Cの両親は、担
当弁護士を通じて涙ながらにのべている。
 「償いのしようがありません。いまできる謝罪は、捜査に全面協力することで
す」「遺族の方のお許しがあれば、すぐにでもおわびにいきたい」「賠償金など
ですむことではありませんが、裸になってでもやって行きたい」と。
 B  父親は事件後仕事をやめ、持病の心臓病に苦しんでおり、母親も仕事をや
めているという。

 子にきっぱり
 −−−−−−
 対処してこそ
 

 D ところで、なぜこんな事件がおこったのかね。とくに監禁の場となった家
の両親は共産党員だったといわれるだけに、われわれもこの点に大きな関心をも
って取材したのだが…。
 A この家の少年Cは、高校入学前から非行グループと付き合うようになり、
半年で中退、婦女暴行で少年院に収容された。少年の家はそのたまり場になって
いく…
 C ただ取材のなかで感じたのは、少年Cの家庭を見ても、地域を見ても、こ
の事件からうけとるような特異な条件があったとは考えられないことだ。両親は
共働きだが、母親は夕食の用意を普通にしている程度の 家庭 だ。小学生時代か
ら、学校の先生がリーダーで作った野球チームにも参加している。
 D そこは私も両親に聞きたいところだ。両親は初めの時期には女子高生の食
事をさせたりもしているのだが、自分の子供にきっぱり対処する態度をとらな
かったし、とれなかったことも確かだ。そこに事態の深刻さがある。
 A 深刻なことは事実だが、やはりこの両親の問題としては、この監禁の経過
についてはもちろん、非行に走る経過についても、なにがなんでも子どもを正し
い道にたちもどらせるということで対処したかどうかという問題がある。
 D それは未成年の子どもをもった親の社会的責任から行ってもそうだ。まし
てこの両親は共産党員だったわけだから、その責任からいっても、自分の信念に
したがって、俗にいえば "体 を 張 っ て" でも子どもの 誤っ た行為を正す態
度が欲しかった。

体罰、しごき
−−−−−−
→高校中退←

 C 学校の方はどうか。高校中退の要因の一つに部活や学校の管理教育もあっ
たのではないか。
 A 少年Cは、中学でバスケット部に入学したが、負けたといっては殴るなど
の顧問教諭の指導方針に反発。少年とともに一年生部員の多く が退部し たとい
う。別の運動部を希望したが認められなかった。その点で、もっと対応の仕方は
なかったものか。ということがいえる。
 D リーダー格の少年Aの場合はもっと直接的だ。中学時代から柔道部の選手
で、都内の私立学校に推薦入学し、柔道部に 入った。 しかし、 上級生の " し
ごき"があって、 耐え切れずに退学している>
 B 少年Aのケースは、暴力団という大変な問題がからんでいる。
 C 都内の暴力団が、リーダー格の少年Aに "勧誘資金" を渡し、非行少年ら
を対象に 暴力団の "予備軍"の組織化をはかっていた。こんどの事件後、少
年たちはこの暴力団の仮事務所に寝泊まりしていたという。
 A 少年Aが極東関口一家系暴力団の下部組織をきどって、「極東青年会」
(極青会)をつくろうといって仲間をあつめた。
 C 暴力団から百万円が渡されたという報道もあるが、青少年をくいものにす
るこうした暴力団はほんとうに許せない。

 暴力、いじめ反
  −−−−−−−
 対貫く共産党

とんでもない反共攻撃への利用

 D この事件を利用した反共攻撃もでている。「両親が共産党の活動だった
から」というものや、「いうことと行いの違う共産党」、反共集団の緑の党の
機関紙「日本新聞」にいたっては、「これは日本共産党の路線そのものにかかわ
ることであろう」などとまでいっている。
 B しかし、この事件が党の路線や活動とまったく関係がないことは明白だ。
こういう重大な、子どもの教育の問題、社会問題をまじめに考えず、ただ反共と
いう政治目的に利用しようなどというのはとんでもないことだ。こんな態度では
問題は何ら解決するものではない。むしろ解決を妨害するものだ。
 D 共産党はこれまで一貫して暴力や体罰、いじめに反対し、受験地獄をなく
して一人ひとりがゆたかに成長するための提言や運動をしてきた党だ。
 A たとえば一九七五年の「」救国・革新の国民的合意のよびかけ」は、大きな
反響をよんだ。
 D あの「よびかけ」のなかでテレビの退廃的映像批判もしたが、広範な国民
の話題となり、これをきっかけにポルノ自動販売機やテレビの俗悪番組を規制す
る世論を高め、実績もあげている。
 B また"いじめ"や"体罰"についても、いっさいの暴力を認めない。こ
の原則を前提にし、子どもの人権侵害や暴力にはき然と対処する。これは教師で
あれ、親であれ必要なことだと思うね。党は学校、教師、父母、地域の力を集め
て根を根絶するために努力しようと訴えてきた。各地でもその運動が起こってい
る。こんどのことでも兆候があったときに重大視しておれば、ということを教訓
にしなければならない。それが今回の事件ではどうだったのか。事実を明らかに
して、教訓を引き出さないといけないと思う。

 反動的政治の
 −−−−−−
 責任たな上げ

 A だいたい、体罰がなくならず、子どもをしめつけたり選別する教育にして
も、歴代の自民党政府の反動的な教育政策のせいだ。さらに、学校教育だけではな
く、子どもに説明がつかないような政治の腐敗、いつになってもなくならない暴
力団の横行などなど、自民党政治のもとでつくりだされている現在の社会が教育
の力を失っていることが、こういう事件の根底にはある。

 

女子高生監禁殺人事件とは

 昨年十一月二五日、アルバイトから帰宅途中の埼玉県三郷市の女子高
生=当時十七歳=の自転車を東京・足立区の非行グループのC(一六)がけり
倒し、A(一八)助けるふうをよそおい、そのままCの家の二階に連れてい
き監禁しました。
 女子高生の家族は、行方不明となった三日後に地元の吉川警察に捜索願
を出していました。
 少年たちは四六時中、女子高生を監禁。十二月下旬頃は、殴る、けるの
暴行をくりかえしていました。また、手足の甲にライターの日を押し付けた
り、揮発油をかけて火をつけるなどの残忍なこともしたということです。
 一方では、女子高生に「心配しないで」などと自宅に電話をかけさせた
りしています。
 また十二月上旬ごろ、Cの両親は女子高生がいるのに気づき、部屋から
連れ出して食事をとらせ、「帰りなさい」と送りだしました。しかし、
少年らはすぐに連れもどし、、以降は細心の注意をして両親に気づかれない
ようにしていました。
 事件にかかわった少年A、B(一七)、C、D(一七)はいずれも高校中退。
 リーダー格のAは暴力団とつながり、少年たちと「極青会」という非行
グループをつくり、暴力団からアルバイトを紹介してもらったりしていま
した。
 少年たちは、「逃がすと犯行がバレる」との思いからズルズルと監禁を
つづけたといわれます。十二月中旬以降は食事も満足に与えられず、女子
高生は急速に衰弱死、声もでなかったということです。
 そして一月四日に殺害。コンクリート詰めにして江東区の埋め立て地
に捨てたのです。